Library of the Year 2012の大賞を受賞する
Library of the Yearについて
2006年から毎年秋にNPO法人知的資源イニシアティブ(IRI)が主催しているLibrary of the Yearという取り組みがある。Library of the Yearは「良い図書館を良いと言う」というコンセプトを掲げていて、以下のような基準のもとに、その年の優秀賞機関および大賞機関を選出している。
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今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動を行っている。
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公立図書館に限らず、公開された図書館的活動をしている機関、団体、活動を対象とする。
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最近の1~3年間程度の活動を評価対象期間とする。
Library of the Yearの選考基準は、必ずしも建物を有する図書館のみが候補機関になるわけではなく、受賞機関として「図書館的活動」を設定しているように、ターゲットを幅広く設定している。また、その評価基準も「今後の公共図書館のあり方を示唆する先進的な活動」となっているように、公共図書館に対して示唆するところがあると判断されれば評価の対象となってくる。必ずしも建物に限定せず、単に「示唆する」という評価基準にしていることで、図書館というものの可能性を広げていく際の参考になることを期待している設計になっている。
Library of the Yearの選考プロセスは、自薦・他薦によって広く一般から候補機関を募り、第一次選考会である程度まで数を絞った上で、第二次選考会にて優秀賞受賞機関として4機関を選出している。そしてその後に実施される最終選考会で優秀賞受賞機関からプレゼンテーションをしてもらい、審査員の投票によってその年の大賞が決定されるという流れとなる。
このようなLibrary of the Yearの理念や評価基準の設定の理由については、発起人の一人である田村俊作先生が以下の文献にまとめている。
また、私自身も2015年のLibrary of the Yearの10周年記念イベントにあわせて、Library of the Yearの副委員長を務めていた福林靖博さんとともに、総括的な記事を書いている。
推薦を募る文章のなかに「全国の図書館を総合的に評価して、ベストの図書館を決めるものではありません。」という注意書きもあるように、その機関の取り組みの総合評価ではなく、ある一点において突き抜けた取り組みを評価しようとしている。
Library of the Yearでは「ナンバーワン」「日本一」の図書館を決めるつもりはなく、その機関ならではの「オンリーワン」な取り組みが評価対象となってくるところがポイントになっている。全体として眺めてみればありふれた活動だとしても、ある一点においては突出した活動というものがあるのではないか。そういうおもしろさを見つけることを期待している。
そして2012年の図書館業界のなかで、ビブリオバトルはそういう活動の一つとして、突出した取り組みとして評価されるようになったのである。
Library of the Year 2012の優秀賞を受賞する
Library of the Year 2012のときには、2012年9月28日(金)にビブリオバトルを含む4機関が優秀賞受賞機関として公表されている。
ビブリオバトルのほかに、CiNii、saveMLAK、三重県立図書館が優秀賞に選ばれている。
このうち、図書館施設を有するのは三重県立図書館だけであり、この年のLibrary of the Yea は珍しくウェブサービスや活動のほうにより注目が集まった回である。
ビブリオバトルの授賞理由は次のとおりである。
発表者による好きな本のプレゼンやディスカッションを行うイベントです。「人を通じて本を知る/本を通じて人を知る」というコンセプトを掲げた知的書評合戦として、全国大会が行われるほどの盛り上がりを見せています。継続的に行われていること、各地で開催されていることなども評価されました。
ビブリオバトルについて書かれた最初の書籍は、2013年に出版された谷口さんの『ビブリオバトル』なのだけれども、その出版よりもさらに早い段階でLibrary of the Yearはビブリオバトルを評価している。
ビブリオバトル普及委員会が設立されたのが2010年なので、2010年から2012年前半までの2年ちょっとの活動が評価対象になっている。その当時のビブリオバトルの知名度を振り返ってみても、とても速やかな評価が行われているように思う。
図書館業界におけるビブリオバトルとしては、奈良県立図書情報館が2011年3月13日(日)に公共図書館で初めて実施したほか、堺市立図書館などが早い事例として知られていた。
その後も図書館での実施事例も増えていくなかで、Library of the Year 2012で優秀賞を取ったことは、ビブリオバトルの普及活動にとって、図書館業界に一気に名前を知ってもらえる追い風となるような評価だったように思う。
Library of the Year 2012の大賞を受賞する
そして、2012年11月20日(火)に最終選考会が行われる。私はこの時点で既にビブリオバトル普及委員会に入会していたこともあり、ビブリオバトルのプレゼンターに指名されている。これはビブリオバトルに関わるようになったときにはまったく予想もしていなかったことだし、まさかビブリオバトルを推すためのプレゼンテーションの役回りが巡ってくるとは思っていなかった。
最終選考会の当日を迎えるまでに、「本のプレゼンテーションを行うビブリオバトルというゲームの魅力を語るプレゼンテーションをする」というややこしさに、スライドをつくるのもだいぶ迷ったりした。ビブリオバトル普及委員会が持っていたその当時の普及データを盛り込みながら、私なりの視点でビブリオバトルの魅力を語ろうと思った。言葉をたくさん盛り込もうと思った。
最終的に7分間のプレゼンテーションの持ち時間に全部で121枚のスライドを用意して語りきった。7分間しか持ち時間がないので1枚あたりの文字数は少なくして図表も多めにしてインパクトを出そうとしたし、本番でもだいぶ早口で紹介することにはなったけれど、ビブリオバトルを紹介するにふさわしいプレゼンテーションができたような手応えがあった。
プレゼンテーションのなかでは谷口さんの以下のツイートも引用した。
今になってあらためてあの当時を振り返ってみても、2012年の時点では谷口さんのこのツイートがビブリオバトルを象徴するにふさわしいひと言だったなと思える。このツイートはあのタイミングのなかでとても説得力を持っていたと思う。
問われるのは「聴衆」のセンスだ。
ビブリオバトルは出場するバトラーだけではなくて、それに参加しているみなさんが全員で育ててきたのだ。全国各地でビブリオバトルを楽しんできたみんながいたからこそ、Library of the Year 2012で表彰されたのだ。みんなでつかみ取った大賞である。
ビブリオバトルのプレゼンターを務めることが先に決まっていたため、三重県立図書館のプレゼンターについては、私と同じ皇學館大学の高倉一紀先生にお願いすることにしたのも懐かしい思い出である(私も三重県立図書館を応援したい気持ちもあったのだ)。
結果はビブリオバトルが大賞を受賞することになったのだけれど、それぞれの活動の方向性がまったく異なるため、審査員のみなさまをとても悩ましたようである。
Library of the Year 2012の審査委員長を務めた大串夏身先生は、このときの審査について次のように書いている。
今年は、4つの最終選考にのこった図書館、団体、機関、それぞれに図書館のこれからを考える上で示唆に富むもので、領域が重なるものがなかったために非常に難しい選考となりました。
公共図書館の基本的な役割である読書のススメ、図書館の持つ知識・情報と住民・利用者を結びつける方法、図書館の改革の方法、地域での知的な創造の組織である図書館が活用する情報源など、それぞれにこれからの図書館を考える上で示唆を与えるものでした。
これだけ多様な候補機関が選出されてくると、審査員としてはとても判断が難しいとは思う。私が審査員の立場だったら相当悩むと思う。
それでも、Library of the Yearではこれらを同じ土俵に上げて、審査員が主観的に評価する。主観的であることには批判の声も寄せられたりしているけれども、それでも福林さんも「図書館のプロによる勝手連的な議論と独断」こそがLibrary of the Yearが本来志向していたものだと回想するように、勝手に評価するからこそおもしろい賞になっているとも言える。
このときの受賞コメントで、谷口さんはこんなことを書いている。
この大賞を頂いた後に、ビブリオバトルは何処へ向かうのでしょうか?
僕達がビブリオバトル普及活動の中で、いつも言っていることなのですが、ビブリオバトルの目標は、サッカーやドッジボールと同じような「普通名詞」になることです。日常生活の中に自然と存在するビブリオバトルになれるまで、今後とも、このまだまだ新しい「概念」の普及と定着にご支援、ご協力いただければ幸いです。
Library of the Year 2012での大賞授賞から、9年近くの時間が経過している。谷口さんの言う「普通名詞」に、ビブリオバトルは少しずつ近づいているように思う。
Library of the Yearがあってよかった。このときに大賞を受賞することができてほんとうによかった。
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