本は一人では読めないものである

本は自分一人で読んでいるように思えるけれど、実は私たちは自分一人では本を読むことができないという話。
岡野裕行 2021.12.13
誰でも

大会を終えて

みなさまこんにちは、はじめまして、岡野裕行と申します。私は普段、皇學館大学文学部国文学科で教員をしています。大学では図書館司書課程も担当していて、図書館員になりたい人向けに司書資格関係の講義もいくつか担当しています。

学外ではここ数年、ビブリオバトル普及委員会という全国組織の代表理事を務めてきて、ここ数年は三重県教育委員会さんと協力して、そこにいるビブロフィリアの学生たちと一緒に高校生ビブリオバトル大会の運営に関わっています。

今日はみなさん、すばらしい発表ばかりでした。バトラーのみなさんがお互いに質問も行っていて、とても活発な話ができてとてもよかったと思います。今日出場したみんなでつくり上げたとても楽しい時間だったと思います。

私はみんなのプレゼンや質疑応答のやり取りを会場で聞きながら、みんながこれまでどんなふうに本と親しんできたのかなということを想像していました。

私はこんなことを考えました。「本は一人では読めないものである」と。

なんかおかしいな言葉だと思いますね、「本は一人で読むものである」の間違いではないのか?と。「だって私は自分の意思でこの本を手に取り、自分の目で文字を追って読み終えた本を紹介したんですよ」と思いますね。

でも、私は「本は一人では読めないものである」と言いました。どういうことでしょう。

そもそも本を読む力は自分一人で身につけたものではないのです。必ず誰かからの影響を受けます。文字も読めない幼い頃に言葉を耳で聞いていた、誰かが絵本を読んでくれた、文字を教えてくれた、そして自分の力で読み書きができるようになった。誰にもそういう過程があります。

赤ちゃんの頃からみなさんにお話を語ってくれた人、絵本を読んでくれた人がいます。ご両親が読み聞かせをしてくれます。子供の読書というのは親の影響を強く受けます。親が選んだ本という過程を通して私たちは本に触れるようになります。小さい頃にみなさんの自宅に本があったのは、誰かがそれを持ち帰ってきたからです。図書館に行くにも本屋に行くにも親が連れて行ってくれないと本に出会えません。

本を読んでくれた人もいます。それは親だったり、兄弟姉妹だったり、祖父母だったり、いとこや親戚のおじさんおばさんだったりします。近所の幼馴染から、仲の良い友達から、片思いの子が読んでいる本がやけに気になったり、恋人から勧められたりします。保育所・幼稚園や学校の先生、近所の大人たちいます。いろいろな人たちが言葉を教えてくれて、文字を教えてくれました。いつの間にか自分一人の力で本を選べるようになりましたが、そういう長い時間の蓄積の先にみなさんの読書体験がつくられています。

有名人からの影響も受けます。今日の発表でも自分の好きなミュージシャンの本を紹介してくれた人がいましたが、自分の好きな有名人が本を紹介することがあります。テレビやラジオで本が紹介されることがあります。最近はネットを通じて本を知ることも増えたと思います。電車の車内広告で知ることもあります。いろいろな場所から本を読むきっかけを得ています。

それは図書館や本屋の棚だったり、古本屋さんで思いがけない本とめぐりあったり、カフェに置かれた本や病院の本棚もあります。本はいろいろなところに置かれています。どこかの誰かがそこに本を置いています。著者という本を書いた人がいて、出版社や印刷製本会社という本をつくった人がいて、取次や本屋さんという本を運んでくれた人がいて、そこに私が手を伸ばしてきたのです。

そしてみなさんが本を読む時間、安心して本を読める環境は誰が用意してくれましたか?向こうの部屋から聞こえる「ご飯だよ」と言葉をかけられる。そう言われても立ち上がろうとせずに、身体を動かそうともせずに、ただひたすら本の世界に没頭し続ける私。怒りをまじりの何度目かの呼びかけで、しおりを探して本に挟み込んで、ようやく腰を上げる。食事を済ませてお風呂に入って、みなさんはまた本の世界に戻っていく。それは当たり前の風景のように思えてしまうし、おそらく記録にも残らないから気づきづらいけれど、身の回りの世話をすることでみなさんが本を読む時間と環境をつくってくれた人が、すぐそばにいたということなんですね。

「本を読む」というのはいろいろな人たちから贈り物を受け取ったということです。直接顔を合わせる関係だけでなく、どこの誰なのかもわからない人ともみなさんは間接的に関わっています。誰かの手によってつくられて運ばれてきた本にみなさんは手を触れる。ギフトはいろいろなところからみなさんのもとに届きます。

本の内容を「どう読むのか」は確かに個人的なものかもしれないです。けれども、「どんな本をどこで知って、どんな環境でどんな風にその本を読むのか」は他者との関係のなかで生まれてきます。それは直接に対面するような関係ではなくても、それが図書館や本屋さん古本屋さんの本棚であっても、その棚に本を並べた誰かがいます。棚を通じた関係で本を手に取ります。みなさんが選んだ本は、いろいろな人との関係のなかで選ばれてきたものです。

冒頭に私が言ったこと「本は一人では読めないものである」とは、そういういろいろな人たちの存在を思い浮かべながら考えたことです。みなさんが発表してくれた本もすばらしいし、それを紹介したみなさんの発表もすばらしい。そして、みなさんに本を届けてくれた人たち、その本のおもしろさを気づかせてくれた周りの人たちのことも想像します。今日の発表のなかでも、「お母さんに教えてもらった本」「学校の先生に勧められた本」という人がいました。本を読んだ後に、「私の弟を本屋に連れていきたいです」と言ってくれた人もいました。あなたの個人的な読書体験は、決してあなた一人のものではないのです。

個人的な読書体験を言葉にしてみる。その言葉はあなた以外のほかの誰かのためになります、次の読者を生み出します。お母さんは自分の読書体験をもとに、みなさんにその本を読んでほしかった。みなさんも自分が読んだ本を誰かに伝えてみたくなった。

ビブリオバトルには「本を通して人を知る、人を通して本を知る」というキャッチコピーがあります。あなたが何らかのきっかけでその本を手に取ったということは、過去の自分がほかの誰かの思いに反応したということです。そして今日の発表で語った「本のおもしろさを伝えたい」というあなたの言葉やその思いに反応してくれて、今日のビブリオバトルに参加してくれたバトラーや聴衆の誰かがその本を手に取るかもしれません。今日のみなさんの発表を受けて、この会場に来てくださった人たち、オンラインを通じてこの大会を見てくださったたくさんの人たちが読書欲を刺激されたと思います。それも今日のビブリオバトルの大会を通じて、みなさんとの関係のなかで生じてきたものだと思います。

おもしろい本に気がつける能力は、きっと本を読むことでしか養われません。みなさんにはおもしろい本に反応し、それを手に取る力があったということです。これからもたくさんのおもしろい本に気づいてください、その本を語ってください。そしてまた、本のおもしろさに反応できるようになった自分を育ててくれた周りの人たちのことも思い出してみてください。

繰り返しますが本は自分一人の力だけでは読めません。そして、きっとみんなで読んだ方が楽しいです。ビブリオバトルというゲームも、そのための方法の一つだと思います。

たまたまですが、今日(2021年12月11日)の大会は大学生による全国大会(大学生ビブリオバトル・オンライン大会2021)の準決勝の日と被っています。こちらは決勝が来週12月19日にオンラインで開催されます。大学生になってもビブリオバトルの大会があります。社会人になっても大会があります。

大会という形式ではなくても、いろいろなところでビブリオバトルは簡単に楽しむことができます。大人同士の部活動のような感じで、長く楽しまれている人たちが全国各地にたくさんいます。本の話をするのはとても楽しいことです。みなさんもぜひ、大学生になっても大人になってからもビブリオバトルを続けてください。そして今日この場で出会い、一緒にビブリオバトルを楽しんだほかの学校の人たちともぜひ仲良くなってからお帰りください。きっとまたどこかで会える日が来ると思います。

今年度の大会も三重県教育委員会のみなさまにはお世話になりました。ここ数年、この時期の毎年恒例の行事として開催してくださっていることに、改めて感謝申し上げます。また、各学校の教職員のみなさま、保護者のみなさまもご参加ありがとうございました。各学校での取り組みにも、ビブリオバトル普及委員の立場としても感謝申し上げます。

ありがとうございました。

この文章について

上記の文章は、2021年12月11日(土)に開催された以下の大会の最後に講評として話した内容を、思い出しながら再現したものです(注:その場で話したことを再現したものなので、このまま一字一句同じように読み上げたわけではありません)。

「中学生・高校生ビブリオバトル三重決戦2021を開催します」
https://www.pref.mie.lg.jp/TOPICS/m0046300196.htm

なお、午前中の中学生大会(第1回)と午後の高校生大会(第7回)で、同じ話を2回行っています。それぞれの大会実施の経緯や実施回数は異なるので、冒頭部分の表現を若干変えて話しています。

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