ビブリオバトルの団体をつくる
ビブリオバトルを知ることからやってみることへ
ビブリオバトルはコミュニケーションゲームであり、一人だけで楽しむことはできない。必ず一緒に楽しむ相手が必要になる。
ビブリオバトルを知るきっかけは人によっても異なるが、「ビブリオバトルを開催しているところを偶然とおりかかって見学する」「知り合いからビブリオバトルに誘われる」「ネットや本でビブリオバトルというゲームを知る」あたりが一般的なところである。
そしてビブリオバトルに限らないが、そのゲームを「知ること」と、そのゲームを「やってみること」は別の話である。ビブリオバトルを知ったけれども実際にやってみる機会がなかなか訪れないこともあるし、ビブリオバトルを知って即座にそれを体験する機会に恵まれることもあるだろう。
ビブリオバトル普及委員会での普及活動でも、まずは「ビブリオバトルをやってみる」機会をいかにつくりだせば良いのかも考えていたりする。周りの人たちをビブリオバトルに誘い、それに賛同してくれる人をいかにして増やしていくのかを考える。ビブリオバトルというものが実際にどういうものなのかが見てみないとわからないという人には、まずは見学だけでも勧めてみたい。
私の場合は、2010年にツイッター経由でビブリオバトルの情報を知ったことがきっかけであり、実際の体験の機会としては、その年の非常勤先の大学の授業のなかで試してみたことから始まっている。私自身の普段の仕事が大学教員であるため、大学生と一緒にビブリオバトルを試してみることが、もっともやりやすかったわけである。ビブリオバトルがもともと大学の小規模な有志ゼミから誕生した背景を考えても、ビブリオバトルを大学生が楽しむことはとても自然な形のようにも思える。
皇學館大学でビブリオバトルを試してみた
2011年4月に皇學館大学に着任して以降、個人的に初めて行ったビブリオバトルは、皇學館大学国文学会という学内学会で行ったものである。国文学会は国文学科の各先生がそれぞれ自分の研究分野に合わせたテーマで部会を開いており、正規の科目とは別に有志で活動しているものである。
研究部会は正規科目ではないので卒業単位にはならず、あくまでも自主的な勉強会という位置づけになるが、やる気のある学生さんは関心のあるテーマについて、授業以外の時間で話を聞く機会がある。
正規科目ではないため、教員としてもある程度自由に内容を設定することができるし、授業では扱えないような文献も時間をかけて読むことができたりする。
私は自分の研究テーマにも絡めて「文学館研究部会」という部会を開くことにした。
私の研究部会では、私の着任と同じタイミングで入学してきた当時の1年生が4人と、2年生1人がメンバーとして加わってくれた。この研究部会という小さな集まりで、「試しにビブリオバトルをやってみよう」と考えたのが皇學館大学での初めてのビブリオバトルとなった。
その頃は「ビブリオバトルを広めよう」とか「ビブリオバトルを普及させよう」といった普及活動という考えも持っておらず、単純に「ビブリオバトルを楽しもう」という思いでやってみたのである。私も含めて6人で実施したことから始まっている。
授業として実施しているわけでもない、研究部会という有志での集まりで最初のビブリオバトルを行えたことは、緊張感を感じることもなくとてもよかったと思う。
皇學館大学でのビブリオバトルは、研究部会での実施後に、年度末の1年生向けの正規の授業内でも1回行っている。授業の人数もそれほど多くなかったので、授業の直前に思い立って事務の方2名にお声がけして急遽見学をしていただいた。
そのうちの1名の事務の方が、授業後に「これはおもしろい活動なのでぜひ学内でも続けてください」と、ビブリオバトルに興味を持ってくださり、学内的な活動をいろいろと後押ししてくれるようになったことはありがたかった。急な思いつきだったけれど、授業を見学していただけてよかったなと思えたできごとだった。
着任1年目の2011年度は、試しにやってみた2回のビブリオバトルだけだったが、これらがその後の動きにも繋がっていくことになる。
サークル「ビブロフィリア」の発足
着任2年目の2012年4月、新しい3年生のゼミ生が配属された。1年目の2011年4月の時点では思いつかなかったが、その後に前述の研究部会や授業で実践したことの感触が良かったこともあり、「自己紹介を兼ねてゼミ生でビブリオバトルをやってみよう」と思うようになった。
私としては「年度初めのゼミで1回だけやってみる」ということしか考えていなかったが、ゼミの後に学生同士で「ビブリオバトルをサークルにしてみたらおもしろそうだ」と相談していたらしい。間もなくして「サークル設立を申請するので顧問になってください」という話を持ちかけてきた。
あくまでも活動の中心にビブリオバトルを置く団体をつくりたいということらしい。団体の名称を「ビブロフィリア」にするということも決めていたらしい。
その当時、大阪大学のScienthroughや名古屋市立大学のREADなどの団体がビブリオバトルを行っていたことを谷口さんからも聞いていたが、2012年の時点ではビブリオバトルを活動の中心に据えている学生団体は、全国的にもまだ珍しかったように思う。
私としても、「そうか、ビブリオバトルだけを活動の目的にした団体設立というアイデアがあったのか」という発見があった。研究部会や授業・ゼミなど、自分が大学教員の立場で学生たちに「やってみよう」と勧めることはしてきたが、皇學館大学のなかではまだほんの数回しかやってないにもかかわらず、学生主体でビブリオバトルの活動が動き始めたのである。
これは私自身のビブリオバトル個人史のなかでも、学生に教えられたもっとも大きな学びである。ビブリオバトルをやる場所がほしいなら自分たちでつくってしまえば良い。そういう発想を学生が教えてくれたのである。
2012年5月に設立準備を開始し、書類の手続きを済ませて学内委員会の承認を得たことで、7月には大学の正式な同好会として「ビブロフィリア」が認められることになった。
この後、皇學館大学は「ある程度の活動実績を持たない団体はすぐに認可しない」という方針に切り替わっている。そのため、ビブロフィリアは活動実績がないままに団体設立が認められた最後の同好会となった。その後、三重県教育委員会のビブリオバトル普及事業にもビブロフィリアの学生たちは絡むようになってくるので、その後の展開を考える上で、ぎりぎりのタイミングでも大学公認の団体としてスタートできたことの意義は大きかったように思う。
2013年5月に文部科学省「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」にビブリオバトルが取り上げられたことで、学校教育への導入が進むようになるのだけれど、幸いにもビブロフィリアはそういった動きにも先行するタイミングで活動を開始していたのである。
その後、ビブロフィリアは現在に至るまで三重県の学校教育におけるビブリオバトル普及の歴史に大きな役割を担うようになる。
私のゼミ生でビブロフィリアを設立した中心メンバーの加藤優くんは、2014年3月に大学を卒業した後、B&BやBUKATUDOでの仕事を経て、伊勢に散策舎という本屋を開業している。古本屋ぽらんさんと一緒に私が2015年から続けている「伊勢河崎一箱古本市」にも、初回から継続的に出店してくれている。
在学中から本の未来を考え続けていた学生たちがいて、そこでビブリオバトルをやってみれもらったことで新しい展開が生まれていった。
物事は予想もしない方向に繋がっていくものだけれど、私がビブリオバトル普及委員会の理事になったり代表を務めるようになった背景には、三重県内での活動実績も影響していたと思うので、そういう点でも学生たちがビブロフィリアを設立してくれていたことの影響は小さくはない。
ビブリオバトルを楽しむための活動の場をつくってくれた学生たちには感謝している。
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