ビブリオバトルについて議論する

ビブリオバトル普及委員会では、2014年から「ビブリオバトル・シンポジウム」という取り組みを始めている。毎回のテーマを決めてビブリオバトルについての議論を行う。シンポジウムのパネリストはビブリオバトル普及委員会のメンバーに限らず、さまざまな分野の人にお声がけをしている。社会に対するビブリオバトルの影響をみんなで考えてみる話。
岡野裕行 2021.08.02
誰でも

ビブリオバトル・シンポジウムのはじまり

2012年に始まった「ビブリオバトル春のワークショップ」は、ビブリオバトル普及委員会の関係者だけの情報共有のイベントである。これはビブリオバトル普及活動のなかで出てきた問題点についてのディスカッション、普及活動に便利なツールの共有、ビブリオバトル普及活動の展望、各地のビブリオバトル普及状況などについて議論をする場として始まったものである。

それに対し、「もっと世の中に対して広くビブリオバトルの普及活動をしよう」という意図で始めたのが、2014年から続く「ビブリオバトル・シンポジウム」である。こちらは広く一般に向けに公開され、毎回のテーマに合わせてさまざまなパネリストに登壇してもらっている。ビブリオバトル普及委員会としても、新たな普及活動のあり方を検討した上での新規事業として始めたものである。

初回のとなる「ビブリオバトル・シンポジウム2014」は、2014年12月13日(土)に立命館大学・朱雀キャンパスで開催した。

この日程に決まったのは、翌日の12月14日(日)に「全国大学ビブリオバトル2014 〜京都決戦〜」が京都大学で実施されることが先に決まっていたことも要因の一つになっている。

せっかく全国からビブリオバトル関係者が京都に集まってくるわけなので、「その前日に別のイベントを企画してしまおう」と考えたわけである。

「ビブリオバトル・シンポジウム2014」は、初回開催にして、これまででもっとも大きな規模で実施したものとなっている。その開催の趣旨は以下の通りである。

各地においてビブリオバトルに関する活動が小中高、大学、一般企業、公共図書館等に広まる中で、その共通理解を醸成するための情報交換の場が求められています。これを受けて、図書館、書店、教育機関、全国の市井のビブリオバトルに関わる多くの関係者が、ビブリオバトルについての実践や研究に関する意見交換、情報交換を行う場として、新たに「ビブリオバトル・シンポジウム」を創設します。

この頃にはビブリオバトルを実施する空間として、「学校教育」「地域コミュニティ」「図書館」の三つの形が見えてきたこともあり、この三つの分野を柱としながら、13:00から18:00までに以下のようなプログラムを実施している。

  • 谷口忠大氏の基調講演「コミュニケーションの基盤としてのビブリオバトル」

  • 学校教育「学校ビブリオバトルの意義と効果を改めて考える:小・中・高・大の第一線現場教員が語る、多様な教育活用の方法と楽しさ」

  • ポスターセッション

  • 番外編トークライブ「翼を持つ少女 BISビブリオバトル部」出版迫る緊急トークライブ!小説だからこそ伝わるリアル?

  • 地域コミュニティ「地域コミュニティを元気に!未来を占うトークバトル!:日常の遊びからつながる“WA”和・輪・話」

  • 図書館「図書館はビブリオバトルとどのように歩んできたか:図書館への導入・普及とこれからの可能性」

  • 懇親会(希望者のみ)

私自身はこのときの「ビブリオバトル・シンポジウム2014」で、図書館をテーマにしたセッションのコーディネーター役を務めており、2012年の「Library of the Year 2012」でのプレゼンターぶりに公の場でビブリオバトルと図書館を語る機会になっていた。コーディネーターという立場をいただいたため、与えられた持ち時間のなかでどういった人たちに登壇してもらうのかについて、私の責任で候補者を選定した。学校教育については別のセッションが設けられていたため、学校図書館についてはそちらに任せるようにして、公共図書館・大学図書館・図書館利用者・図書館関係企業から各1名ずつ登壇してもらうことにした。

2014年ははじめての開催ということもあり、シンポジウムの準備から本番にいたるまで、参加したみんなが形を探りながらの開催になっていたと思う。とにかくできそうな企画をいろいろと盛り込んでいった。ポスターセッションなどは別の開催年でも実施を検討したこともあるが、結局は開催規模の縮小という方向に進んでいったため、ポスター発表という企画は今のところ初回の2014年のみとなっている。

ビブリオバトル・シンポジウムの歴史(2014〜2016年)

2015年11月14日(土)の「ビブリオバトル・シンポジウム2015」は、私が実行委員長に就任したこともあり、毎年秋にパシフィコ横浜で実施されている「図書館総合展」にご協力をいただきながらの開催となった。

広報面での影響力を考えても、ビブリオバトル普及委員会が単独で開催するよりは、図書館総合展運営委員会のご協力をいただきながらの開催のほうが、普及委員会としてのメリットもより大きくなると考えたためである。

シンポジウムの実行委員長に就任した理由には、私自身が2015年6月からビブリオバトル普及委員会の代表理事を務めるようになったということも挙げられる。そもそも私がビブリオバトル普及委員会の第二代の代表理事になったのは、ビブリオバトル普及委員会を設立した谷口さんが、この年にサバティカルで日本を離れてイギリスに1年間滞在することになったため、普及委員会の運営に関われなくなってしまったという理由がある。谷口さんの頼みもあって代表理事をお引き受けすることになったこともあり、「ビブリオバトル・シンポジウム2015」の実行委員長も務めることで、組織のトップが変わったというところを公に示すという気持ちも込めていたと思う。

また、2012年の「Library of the Year 2012」を開催したのも図書館総合展であるため、ビブリオバトルの名前を大きくしていただいたことへの恩返しの意味もあって、2回目の「ビブリオバトル・シンポジウム2015」の機会を図書館総合展にお願いした経緯がある。

「ビブリオバトル・シンポジウム2015」の実施に際しては、横浜市中央図書館ホールをお借りして、「コミュニティをつくるビブリオバトル」というテーマで開催することになった。この年に特に語っておきたいテーマとして、「コミュニティ」を選定したことや、どういった人たちにパネリストとして登壇していただくかを考えた責任者も私である。私自身は2013年から図書館総合展運営協力委員の一人としても活動しているため、図書館総合展運営委員会との事務的なやり取りなども、私のほうから問い合わせや確認を行うようにして事務作業の効率化も図っている。

図書館総合展は例年平日の火曜日〜木曜日までの3日間がメインの開催期間となっているが、この年は集客と話題性を考えて、その週末の土曜日に行うようにした。結果的にこの年の図書館総合展の最終フォーラムとなったのである。個人的な思いとしても、「Library of the Year 2012」で大賞を受賞した場所で、改めてビブリオバトルについて語る場所をつくれたことはとても感慨深いものがあった。

ただし、図書館総合展のフォーラムの一つになったため、2014年は半日かけて行っていた「ビブリオバトル・シンポジウム」の全体の開催時間が、2015年ではひと枠90分間のみの開催へと縮小することになった。時間が少なくなったこともあり、開催テーマは一つに絞ることになった。

2016年の「ビブリオバトル・シンポジウム2016」は、10月29日(土)・30日(日)の仙台会場(せんだいメディアテーク)と、12月17日(土)の大阪会場(まちライブラリー@もりのみやキューズモール)の2回に分けて実施している。

1年の間に2回のシンポジウムを行ったのは、現時点でもこの年だけのできごとである。また、私自身が企画・運営には関わらなかった唯一の回でもある。企画・運営に手を上げてくれた普及委員会のメンバーがほかにいたのである。企画・運営にはほぼ関与しなかったが、私は大阪会場の当日に足を運び、一聴衆としてシンポジウムのディスカッションを会場の後方から楽しく聞いていた。

スケジュールが合わなかったため、この年の仙台会場には訪れることができなかったが、開催3年目となったこともあり、毎年恒例の事業として実施体制も安定してきた感触を掴むことができたような思いがした。

ビブリオバトル・シンポジウムの歴史(2017〜2020年)

2017年以降は、再び図書館総合展運営委員会にご協力をいただく形になった。2016年の仙台や大阪での開催も充実したものにはなったと感想をいただいたが、やはり図書館総合展という大きなイベントのなかのフォーラムの一つに組み込んでいただけたほうが、何かと実施しやすいと思ったためである。2015年は週末に開催したが、集客面を考えて、平日開催へと開催枠を移動することにした。

2017年11月7日(火)に実施した「ビブリオバトル・シンポジウム2017」では、改めて実行委員長の役目を担うことになった。

4回目の開催テーマとして、「教育におけるビブリオバトルの活用を考える:社会教育・学校教育・地域社会」を設定した。このテーマについても、この当時の私の個人的な関心領域から選んでいる。公共図書館・学校教員・学校司書・民間企業それぞれの立場からの教育分野でのビブリオバトルの話を聞いてみたいと考え、パネリストへの依頼を行っている。
私自身も冒頭に7分間の基調講演の時間をいただいた。パネリストこそが主役であると考えていたため、基調講演はできるだけ短い時間で終えようと考えていた(最初はビブリオバトルのルールに倣って5分間で基調講演を終えようと思っていたくらいだ)。

2018年以降は、実行委員長を別の理事の方に任せるようにして、私自身は実行委員の一人として、図書館総合展運営委員会とのやり取りや当日の会場運営など、裏方に徹することにした。

2018年10月30日(火)に実施した「ビブリオバトル・シンポジウム2018」では、千葉大学アカデミック・リンク・センター特任助教(当時)の常川真央さんが実行委員長となり、本を通じた「出会い」をテーマとして開催した。

テーマを考案したのは常川さんである。実行委員長の常川さんからのご指名を受け、私は後半のパネルディスカッションのコーディネーター役を務めることになった。このときのパネリストとして、『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』という話題の本を刊行したばかりの花田菜々子さん(HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE店長)にもお願いすることになった。

↑リンク先は2020年に出版された文庫版。

花田さんには2018年6月に私の授業のゲスト講師にもお越しいただいていたご縁もあり、私の方からパネリスト登壇の依頼を行った。この年は伊勢と横浜でそれぞれお話をいただいており、花田さんには私の関わっている活動にも何かとご協力をいただくことになった。

2019年11月13日(水)に実施した「ビブリオバトル・シンポジウム2019」では、榎村真由さん(ツアービブリオ主催)が実行委員長となって「ビブリオバトル主催における機能と可能性」をテーマに開催した。

実行委員長の榎村さんからのご指名を受け、この年も私は後半のパネルディスカッションのコーディネーター役を務めることになった。シンポジウムはあくまでもパネリストが主役であってコーディネーターは端役であると考えていたため、2018年も2019年も私の自己紹介のプロフィール文の文字数がとても少なくなっている。

2020年11月21日(土)に実施した「ビブリオバトル・シンポジウム2020」は、COVID-19の影響ではじめてのオンライン開催となってしまったが、河野亜美さん(皇學館大学4年生)が実行委員長となって「ちいさいコミュニティ」をテーマに開催した。

パネリストは当時のビブリオバトル普及委員会の女性理事6名である。私は実行委員長の河野さんの作業をサポートしながら、図書館総合展運営委員会とのつなぎ役などを行ったりしていた。女性パネリスト6人だけでシンポジウムを構成したいという意図もあって、2020年の「ビブリオバトル・シンポジウム2020」では、私は完全に裏方に徹することになった。
河野さんは「全国大学ビブリオバトル2019 〜首都決戦〜」の本戦に出場した経験も持っているのだけれど、その後に初めての学部学生のビブリオバトル普及委員会の理事にもなり、「ビブリオバトル・シンポジウム2020」の実行委員長という役目もしっかり担ってくれたと思う。

以上の通り、2014年から2020年まで7年間にわたって、ビブリオバトル普及委員会では「ビブリオバトル・シンポジウム」を毎年実施してきた。振り返ってみると、この7年間のなかで2016年以外は何かしらの形で私は関わってきている。「ビブリオバトル・シンポジウム」を始めたのは谷口さんが代表理事だった2014年だけれども、シンポジウムの歴史のほとんどは2015年に私が代表理事に就任して以降の事業になっている。私がビブリオバトル普及委員会の代表理事を務めていた6年間は、毎年恒例の事業として行ってきたのである。

代表理事を務めていた頃は、毎年のように「今年はシンポジウムをどういった形で実施してみようか」と、あれこれと思い巡らしていたように思う。
2015年や2017年のように、自分自身が実行委員長の役目を担うことで開催することもできるけれども、代表理事を務めていた6年間では、シンポジウムの実行委員長の役目を担うことはできるだけ避けようと考えていた。実行委員長を2回務めた経験から、ほかの人が考えていることを裏方として支えたいという気持ちが芽生えるようになった。さまざまな人たちの興味関心をテーマとして設定したいという思いが強くなり、毎年の「ビブリオバトル・シンポジウム」については、毎年異なる人が実行委員長としての役割を担ってみたほうが良いと考えるようになった。

実行委員長を決める。開催テーマを決める。そしてパネリストが決まる。当日までの準備を進めるなかで、毎年のシンポジウムの到達点が見えてくる。予想もしなかった言葉がパネリストから届けられる。
ビブリオバトルはゲームそのものを楽しむこともできるが、「ビブリオバトルとは何か」という仕組みや機能を考えてみることもとてもおもしろいのである。

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