まちのなかでのビブリオバトル
ビブロフィリアのこと
私個人が関わっているビブリオバトル団体は、皇學館大学のビブロフィリアという学生サークルである。
2012年7月に活動を開始した団体で、設立当初から顧問として関わっている。
その活動も今年で10年目になる。
ビブリオバトルだけを活動目的とする専門的な団体が大学内につくられたのは、全国的に見れば大阪大学のScienthroughや名古屋市立大学のREADなどが先行していたけれど、この時点でのビブリオバトルのサークル設立はとても早い動きだったと思う。
学生団体なので、当然ながらメンバーはどんどん入れ替わっていく。
10年という時間が経っているので、当然ながら団体設立時の初期メンバーは全員卒業しているし、最初期のメンバーが全員抜けた後に関わってくれていた学生たちも既に卒業している。
今の現役の学生メンバーは、そういった先輩たちの活動の蓄積の先に進んでいる。
ビブロフィリアの学生たちは、三重県教育委員会からの依頼を受けて、年に数回ずつ三重県内の小中高等学校でデモンストレーションをしてみたり、三重県の高校生大会の運営・司会を担当していたりする。
これはビブロフィリアという団体を設立してから約1年が経過した頃、三重県教育委員会の方から三重県の学校教育の現場へのビブリオバトルの導入の相談があったことによるものである。
2013年5月に文部科学省が「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」について」を公表した影響で、全国の教育委員会がビブリオバトルの導入に動き出し始めた頃で、全国的に見ても三重県教育委員会の反応は早かったと思う。
そういった三重県教育委員会の方針がつくられていくことと、三重県内で既に団体を動かし始めていたビブロフィリアとが存在するというタイミングが合致していたことは、三重県におけるビブリオバトルの普及という点でとても良い結果をもたらしていたと思う。
このあたりの経緯は、河野亜美さんとともに「三重県における高校生ビブリオバトルの参加側と普及側の立場から見てきたこと」という文章にまとめている。
ビブロフィリアがまちに出る
ビブロフィリアは普段は学内の附属図書館で学生同士で活動しているのだけれど、初期の頃は年に1回ずつ学外に出向いてビブリオバトルを市民向けに披露していた。
これは皇學館大学が地域連携の活動に対して補助金を出してくれる制度を設けていて、その資金を活用すれば、ビブリオバトルをまちのなかでも展開しやすいと考えたことから始まったものである。
あらかじめ連携先にも話を通して企画書を出す必要はあったけれど、地域連携を推し進めようとする大学の方針にも沿うことになり、企画は無事に採択された。
活動資金が入ることで広報活動もしやすくなるし、学生たちが会場へと移動するための交通費の問題も解決できることになる。
全国各地のビブリオバトルの団体を見てみれば、地域のなかでビブリオバトルを楽しむという文化があちこちで育っていることが私のところにも伝わってきていて、そこから学内で閉じていたサークル活動を地域になかに広げてみてはどうかという発想を得たのである。
特に影響を受けたのは、「古民家ビブリオバトル」という活動である。
開催のたびにいろんな古民家を訪れるという仕組みをつくることで、ビブリオバトルをすることのおもしろさを高めている。
「学内に閉じずに地域に開く」という視点が見えてきたという点で、これはとても参考になった活動である。
「古民家ビブリオバトル」のほかにも地域のなかで楽しむビブリオバトルはあちこちで誕生していて、これは後に2014年12月13日の「ビブリオバトル・シンポジウム2014」で大きく取り上げることになる。
ビブリオバトルの良いところは手軽に開催できるというところで、おもしろいやり方をしている人がいれば、その方法を簡単に真似できることにある。
どんな場所で、どんな方法で、どんな人たちを集めるのか、というところをいろいろ工夫すると、ビブリオバトルがぐっとおもしろくなっていく。
そういうものを参考に、ビブロフィリアの活動にもちょっとした変化が出てくるのではないかという期待もあったのである。
ビブロフィリアは三重県で最初につくられたビブリオバトル団体なので、ビブロフィリアがまちに出ていった活動を振り返ってみると、三重県における初期の普及過程の一端が分かるように思う。
2013年の学外活動
はじめて学外でビブリオバトルを開催したのは2013年11月17日(日)のことで、伊勢の商店街「伊勢銀座新道商店街」で場所をお借りして、一般市民向けのビブリオバトルの機会をつくっていったのである。
このときに大学からの地域連携の予算を活用している。
このときは「中学生部門」「高校生部門」「大学生・一般部門」の3部門に分けて実施している。
ちょうどこの前日の2013年11月16日(土)に、三重県初の高校生大会「高校生ビブリオバトル倉田山決戦 2013」を開催している。
この県大会に出てくれていた高校生のうちの2名が、商店街でのビブリオバトルにも参加を表明してくれたことも良い思い出である。
商店街でのビブリオバトルはビブロフィリアとしても初めてのイベント主催ということもあり、手探りでつくっていった感じも残るし、振り返ってみるとスムーズな運営というわけではなかったけれど、良い形で最初の学外活動を終えることができたと思う。
顧問教員としても、ビブリオバトルを目的に学外活動してもいいのだなということに明確に気がついた機会にもなっている。
2014年の学外活動
また、翌年の2014年6月には、三重県津市のカラスブックスさん主催のイベント「ホンツヅキ」でのビブリオバトルを実施している。
「ホンツヅキ」はカラスブックスの西屋真司さんが企画されたイベントで、そのなかの出し物の一つとしてビブロフィリアにお声がけをいただいたのである。
「ホンツヅキ」は三重県ではじめての「一箱古本市」の開催だったこともあり、このときの経験は2015年から古本屋ぽらんの奥村さんと私が一緒になってはじめた「伊勢河崎一箱古本市」にもつながっていくことになる。
2014年10月には、三重県総合博物館(MieMu)を会場としても実施している。
これは前年の商店街でのビブリオバトルと同じく、大学からの地域連携予算を活用し、連携先である三重県総合博物館(MieMu)の職員さんにも、多大なご協力をいただいている。
ミエゾウの骨格標本の前のスペースでビブリオバトルを行うのは、思い返してみてもとてもおもしろかった。
写真を見返してみても、背景にミエゾウが写り込んでいてとてもおもしろい。
2015年の学外活動
翌2015年は、はじめての「伊勢河崎一箱古本市」を行った年である。
もともと古本屋ぽらんの奥村さんと「古本市やってみたいですね」とは話していたところ、2014年にカラスブックスさんが「ホンツヅキ」を実施したことで大いに刺激を受け、伊勢でもやってみようと動き出したという経緯がある。
この企画にも、皇學館大学からの地域連携事業に対する補助金を活用している。
そして一箱古本市という本を活用した新しいイベントを企画することになったので、それならばそのなかにビブリオバトルの開催も取り込んでしまおうと考えたのだ。
2015年の「伊勢河崎一箱古本市」は、私のゼミ生を中心に有志の学生で行ったのだけれど、それと並行してビブロフィリアの学生たちにも声をかけ、「ビブリオバトル@伊勢河崎」として2015年10月にビブリオバトルを実施したわけである。
2016年の学外活動
2016年は「第2回伊勢河崎一箱古本市」を開催しており、そのなかでも継続的にビブリオバトルを行っている。
このときの記録は、皇學館大学のブログにも記事として掲載してもらっている。
2015年の第1回の「伊勢河崎一箱古本市」は有志の学生で実施した取り組みだけれども、2016年2月に「ふみくら倶楽部」という附属図書館の学生サポーター団体を別に設立したこともあって、2016年の「第2回伊勢河崎一箱古本市」からはふみくら倶楽部の主催に変わっている。
それに合わせての実施なので、2016年の「第2回伊勢河崎一箱古本市」そのものはふみくら倶楽部が、「第2回伊勢河崎一箱古本市」のなかでのビブリオバトルはビブロフィリアが担当するようになっている。
このあたりの経緯については、ふみくら倶楽部の4代目部長を務めた三木彩花さんと附属図書館の井上真美さんと共に、「学生協働の取り組みは学生・職員・教員の間でどのように違って見えているのか:皇學館大学附属図書館ふみくら倶楽部の4年間を事例として」という文章にまとめている。
ビブリオバトルと共にまちに出る
2013年頃には手探りでまちへと出ていたが、この頃になると「まちのなかでビブリオバトルをやる」ことが当たり前の活動のようにもなっている。
大学生が行うビブリオバトルは学内で閉じてしまっても問題ないけれど、まちのなかに出てみるといろいろな反応をもらえるので、そのことが活動への刺激にもなってくる。
ビブリオバトルは自分で発表するのも楽しいし、誰かがビブリオバトルをやっている様子を眺めてみるのも楽しいものだけれど、ビブリオバトルをやっている様子をいろんな人に見てもらうのも楽しい。
2020年以降はCIVID-19の影響で対面での活動に制約も出てきていて、こういったイベントもできなくなっている。
これはどこの大学も同じだとは思うけれど、先輩学生がやってきた活動を、後輩学生が継承しづらい状況になってしまっている。
現時点ではなかなか再開の見通しが立たないのだけれど、まちのなかでビブリオバトルを実施することもおもしろさを、今の現役世代の学生たちにもいつか感じてもらえたらなと思っている。
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