ビブリオバトルを図書館司書課程のなかへ

ビブリオバトルの普及活動というのは、ビブリオバトルを実際にやってみる人、楽しんでもらう人を増やしていくということである。そしてまた、ビブリオバトルを話題にしてくれる人をどうやって増やしていくかということも含まれる。図書館司書課程を受け持っている大学教員にビブリオバトルについて語ってみた話。
岡野裕行 2021.08.16
誰でも

近畿地区図書館学科協議会での発表

近畿地区図書館学会協議会という集まりがある。

司書資格を取るためには、図書館司書課程を開講している大学で必要な単位を取得する必要がある。近畿地区図書館学科協議会は、それらの科目を担当している大学教員同士で意見交換を行うための集まりである。
ここ10年くらいは毎年9月上旬に行っている。

毎年近畿地区の大学が持ち回りで会場が選ばれ、教員同士でさまざまな発表が行われることになる。過去の開催記録を見てみると、第1回が1954年4月23日(天理短期大学)ということなので、既に70年近くの歴史があるらしい。

2013年度の第65回近畿地区図書館学科協議会は、天理大学(奈良県)を会場として、9月5日に実施された。この年の会合で、天理大学の司書課程を受け持っている古賀崇先生にお声がけをいただき、私もビブリオバトルをテーマとして報告することになったのである。

2012年11月に「Library of the Year 2012」の大賞を受賞し、2013年5月に文部科学省「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」が閣議決定されたこともあり、2013年は図書館業界のなかでもビブリオバトルへの関心が高まってきた時期でもある。
図書館司書課程の教員の間でもビブリオバトルが話題になっていた頃で、タイミングとしても大きく話題になってから初めての会合ということもあり、2013年当時に取り上げるトピックスとしてふさわしかったのだと思う。

それより1年前(2012年9月3日の第64回近畿地区図書館学科協議会、このときは私の勤務先である皇學館大学を会場として行った)の時点では、ビブリオバトルが「Library of the Year 2012」の大賞を受賞する前であり、また、谷口さんの新書『ビブリオバトル:本を知り人を知る書評ゲーム』も発売前という状況だったため、図書館司書課程を担当している大学教員からもそれほど注目されていなかったのである。
わずか1年でビブリオバトルへの見方が変わったなと肌で感じたりもしていた。

2013年の前半に公共図書館や学校図書館の司書の人たち向けの研修会としてビブリオバトルについて話す機会はあったのだけれど、図書館司書課程の教員を相手に話をするのはこのときが初めてのことだった。
古賀先生からのせっかくのご依頼を断る理由もないので、それでぜひお願いしますと登壇をお引き受けした。

このときの発表の記録は、同志社大学の佐藤翔先生が目の前でツイッターで中継してくれて、argの岡本真さんがtogetterにまとめられている。

大学におけるビブリオバトル

図書館司書課程におけるビブリオバトルは、あくまでも大学で行われているビブリオバトルの一形態に過ぎないものである。
本来の「ビブリオバトルを楽しむ」というところを目指すだけでなく、「ビブリオバトルというゲームの存在を学生たちに教える」「学生たちが将来的に図書館に勤めるようになった場合に、図書館利用者に対してビブリオバトルという手法もつかうことができる」ことを教えることも目的のなかに含まれている。

ビブリオバトル普及委員会としては、「ビブリオバトルって何?」ということをまずは世の中に広めていくことを目指している。
このときの近畿地区図書館学科協議会への登壇依頼に応えてみた結果、本や情報の専門家である図書館司書を育成する大学教員に対しても行う必要があるということに、私自身も改めて気がついたのである。

これまでにいろんな場所でいろんな人たちに向けて講演会を行ってきたけれど、同じ仕事をしている同業者に伝えるというのは、立場が同じだけに問題点を共有しやすかったように思う。
もちろん「実際にビブリオバトルを楽しんでくれる人を増やす」ことがもっとも重要なことだと思うけれども、「ビブリオバトルを話題にしてくれる人を増やす」ことだけでも十分に意義のある普及活動になるわけである。

このときに同じように大学業界で教育研究にあたっている他大学の図書館司書課程の先生方にビブリオバトルのことを知ってもらえたのは、とてもありがたい機会だったと思う。

現在は、図書館司書課程のテキストにもビブリオバトルについて言及されるようにもなっている。2013年に話をしたときから数年が経ってみると、ずいぶんと認識が変わってきたことを感じている。

大学のなかで実施されるビブリオバトルには、さまざまな形がある。教員が主体となって授業の一環として行うものもあれば、大学図書館の職員が図書館サービスの一環として実施することもある。教職員が中心となるものだけでなく、学生同士のサークル活動として自主的なビブリオバトルが行われることもある(そもそもビブリオバトルが考案されたきっかけも、学生同士の有志ゼミによるものである)。
そのほかにも、大学で実施する高校生向けのオープンキャンパスで実施するものもある。これについては、2014年に獨協大学附属図書館の澁田さんが『カレント・アウェアネス』の記事のなかでも言及している。

こんな風に、大学のなかのさまざまな機会にビブリオバトルの開催事例が増えていることが確認できるのは、とてもありがたくて楽しいことだった。

もともとの発祥が京都大学ということもあるけれど、ビブリオバトルは大学のなかのさまざまな活動ととても相性が良いと思う。いろいろな場面でビブリオバトルを活用することができる。

既に2010年から大学生・大学院生による全国大会「ビブリオバトル首都決戦」が始まっていたということもあるけれど、大学のなかでどうしたらビブリオバトルを広めていけるだろうかということは、ビブリオバトル普及委員会に加入した自分がやるべきことの一つだなとは常々考えていたことである。

2013年の時点で、ビブリオバトルのことを話題にできる近畿地区図書館学科協議会という発表の場があったことはとてもよかったと思う。

学生協働としてのビブリオバトル

このときの発表から6年後の2019年9月6日に、第71回近畿地区図書館学科協議会が京都女子大学で開催されることになり、当番校の担当者である桂まに子先生にお声がけをいただいて、「大学図書館における学生協働の取り組みに教員がどのように関わるか」という発表をする機会もいただいた。

このときの発表はあくまでも学生協働というテーマについて語ったものだけれど、そのなかでもビブリオバトルについて少しだけ言及している。

2013年当時は、まずは「ビブリオバトルとは何か」を問わなければならなかったが、そこから6年も時間が経ってみると、大学のなかでビブリオバトルを実施することが当たり前の風景に変わっていたのである。

2019年の発表は、ビブリオバトルも含めた大学図書館における学生との関わり方というテーマにつながっていくことになった。

学生協働というテーマのなかでビブリオバトルを取り上げることができたのも、全国各地の大学の教職員の皆さまが、授業やゼミ、図書館活動のなかで実施してくださったことの積み重ねの上にある。

ビブリオバトルの普及活動というのは、実にいろいろな形があるのだと早い段階で気づけたことは、その後の個人的なビブリオバトルとの付き合い方にも影響が及んだように思える。

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