本棚にはビブリオバトルで紹介した本がある
読書体験から本を選ぶ
ビブリオバトルで発表をするときには、ほかの人たちに紹介するための本が必要である。
そういうときは、たまたまそのときに読んでいた本を持っていったりとか、本棚を眺めながら「この本おもしろかったな」と記憶を頼りに手にとって選んだりすることが多い。
あまり深いことは考えずに本を選んでいる。
誰かに紹介するための本を選ぶという行為は、過去の自分との対話の時間でもある。
本を選ぶ際に頼りになるのは、過去の自分の読書体験である。
「この本はいいテーマの本だった」「あの本にはとても印象深い言葉が書かれていた」「その本はとても感動した」など、過去の自分と本との関係でさまざまな感情が芽生えてくる。
本を読んだそのときの記憶を頼りに本を選んでいる。
本に触れた指の感触を改めて確かめてみる。
私が読んでおもしろかったと思える本は、私だけにしかわからない。
本を紹介するにあたって、自分の本棚を眺め、誰かに紹介したい一文を探すために改めて目を通す時間は良いものだ。
けれども読んだはずなのに内容を忘れてしまったような本も多い。
ピエール・バイヤールという人の『読んでいない本について堂々と語る方法』がとても好きで、ビブリオバトルでもこれまでに何度か紹介している。
本を読んでも内容を忘れてしまったことも気にしなくていいと思えるようになったのは、この本のおかげである。
ビブリオバトルが広まっていく初期の頃の2010年にも紹介していた人がいる。
私はどういう本を選びたいか
私がビブリオバトルに小説・物語を選ぶことはほぼない(紹介した記憶がない)。
これは個人的な読書の関心のせいでもあるのだけれど、小説・物語の本はどうも紹介しづらいように感じている(あくまでも個人的な感想です)。
大会の司会や挨拶などを担当することも多いので、中学生や高校生のビブリオバトルを見学する機会もあるのだけれど、中学生や高校生は小説を選ぶ割合が比較的高いように思うので、こういう本の選び方は年齢差による違いも出てくるところだと思う。
普段の仕事が大学教員なので、個人的には学生と一緒になってビブリオバトルをする機会が多いこともあり、だいたいは書物文化や読書文化に関する本(個人的にももっとも好きなジャンル)を紹介することが多い。
そもそも「本を読むということ」に関心があるので、そういう選書をしがちになっている。
ビブリオバトルは「自分が読んでおもしろいと思った本」を持っていくというルールになっているので、もちろん「おもしろい本」であることを重要視しているのだけれど、ビブリオバトルにはチャンプ本を決めるという仕組みがあるので、その本を実読んでほしいとも思っている。
ビブリオバトルをやる機会はそれほど多くはない
5人前後の人たちがそれぞれおもしろいと思ったおすすめの本を持ち寄って、だいたい1時間くらいかけてビブリオバトルをする。
ビブリオバトルで紹介できる本は、みんな合わせても1回のゲームで数冊にしかならない。
だからビブリオバトルで紹介できる本というのは、膨大な数の本が世の中のあるうちのほんの一部でしかない。
その一部にどんな本を持っていくのかは「深く考えずに選んでいる」とは言いながら、それでも自分が感銘を受けた本を持っていきたい。
一度でもビブリオバトルで紹介した本は、自分の読書体験のなかで特別な意味づけがされることになるからだ。
本棚から再度その本に手を伸ばしたときに、「あのときのビブリオバトルで紹介したな」という記憶がずっと残る。
自分にも残るし、一緒にビブリオバトルをした誰かにも残っていると思う。
本と結びつくのは著者だけではなく、読者も本と結びつく。
本の存在を知って、その本を買って、本棚に並べて、その本を読むときがあって、そしてビブリオバトルで誰かにその本を紹介するときがくる。
その本がおもしろいというのもあるけれど、その本を紹介することになった個人的な事情やそこに込められた思いもおもしろい。
「まさかこの本をビブリオバトルで紹介することになるとは思わなかったな」という本が自分の本棚に並んでいる。
そして人が体験できるビブリオバトルの回数も、それほど多くはない。
ビブリオバトルを楽しむためには、それをやるための場所や時間が必要だし、一緒に楽しむ仲間も必要になる。
誰かと予定を合わせながら、ビブリオバトルを一緒に楽しむ。
一緒にビブリオバトルを楽しんでいた人とも、お互いの生活環境が変わるとそういう機会がなくなってしまう。
気がつけば同じ人とはなかなかビブリオバトルをしなくなってしまう。
いずれ新しい環境で新しく出会った人とビブリオバトルをすることはできるだろうけれど、そのときに自分がいたその場所でやったビブリオバトルは思い出のなかにある。
一つひとつのビブリオバトルの体験が、後々に振り返って愛おしく思えてくる。
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