ビブリオバトルを楽しむ人を知る
ビブリオバトルの団体をつくる
ビブリオバトルは老若男女を問わず、いろいろな年代の人たちが気軽に楽しめるゲームである。2010年にビブリオバトル普及委員会が発足したことで、全国的にも開催事例が増えるようになった。ビブリオバトルの普及活動の目的は、考案者の谷口さんが「サッカーやドッジボールと同じような普通名詞になること」と書いているように、誰でも気軽に楽しめる状況を目指しているわけである。
全国の普及の動向を見渡してみれば、たとえばTokyo Biblioというビブリオバトルのための団体が2011年に設立されている。大人同士の部活動のような形で交流する団体をつくる人たちも出てくるようになる。
あるいはまた、2011年3月の奈良県立図書情報館のように、図書館業界でもっとも早くビブリオバトルを始めた事例も見ることができる。
もともと京都大学から生まれたビブリオバトルは、大学のなかで実施することとはとても相性が良い。大阪大学のScienthroughや名古屋市立大学のREADなどの団体は、早い段階からビブリオバトルを楽しんでいたらしい。
2010年はビブリオバトル普及委員会が活動を開始したことに加え、この年から大学生・大学院生による全国大会「ビブリオバトル首都決戦2010」が始まったことも大きな影響力を持っていたと思う。
いろんな人たちがビブリオバトルを楽しむ団体をつくり始める。ウェブを通じて「ビブリオバトルをやるにはそういう団体をつくればよい」という前例が見えるようになってくる。自分にとってビブリオバトルが必要となるのならば、自分でそういう場所をつくってしまえばいいのだということが伝わってくる。
ビブリオバトルの団体同士がつながる
Tokyo Biblioを立ち上げた亀山綾乃さんは、Library of the Year 2012の最終選考会の会場で大賞受賞の喜びの瞬間を共にした仲間でもある。あの日の会場の最前列で、私のプレゼンテーションを見守ってくれている。
普段は遠く離れたところに暮らしているビブリオバトル愛好者たちが、パシフィコ横浜で開催されている図書館総合展に集り、Library of the Year 2012最終選考会の様子を見に来ている。Library of the Yearは優秀賞を受賞するだけでも、評価としては十分すばらしいと見てもらえるものではあるけれども、この年に大賞を受賞したことのインパクトは、その後の普及活動のための大きな力にもなっている。ビブリオバトル普及委員会としても、とても大きな成果になっていたと思う。
振り返ってみてもLibrary of the Year 2012でプレゼンターのお役目をいただいたことは、個人的にも貴重な経験になっている。
2015年の図書館総合展で、「Library of the Year 10周年記念フォーラム」を実施した際に、歴代のLibrary of the Yearの受賞機関なかでも、その後の発展において特に影響力があった事例としてビブリオバトルが取り上げられることになった。
Library of the Yearは受賞時の勢いを評価するような仕組みになっているため、受賞から時間が経ってしまうと活動が縮小してしまう事例も見られる。そもそもいくら尖った活動を評価しても、それはすぐにほかの機関でも真似されるものであり、当たり前の活動へと評価も変わってしまうことは当然の流れでもある。
ビブリオバトルはお互いのおすすめの本を紹介しあうというゲームではあり、それはシンプルな公式ルールのもとに実施される。それを楽しんでいる人も、それを実施する場所や機会も、大賞受賞後にさらなる多様性が生まれてもいた。2012年から2015年までのわずか3年間でも、より進化した活動として全国的に普及が進んでいたのである。
私はこの「Library of the Year 10周年記念フォーラム」でもプレゼンターのお役目をいただいたのだけれど、いろいろな人たちが本について語るという行為を気軽に楽しむことができる仕組みとして、ビブリオバトルが社会のなかで定着していく様子をその渦中から見ることができたのはとてもありがたいことだと思っている。
大学や図書館でビブリオバトルを実施する
ツイッターを眺めていると、2010年の秋頃には母校の後輩たちがビブリオバトルを楽しんでいる様子が見えるようになっていた。岡本さんも宇陀・松村研究室「近未来書籍カフェ」のことをリツイートしていたけれど、特に母校の先生や後輩たちが一緒になってビブリオバトルを楽しんでいる状況がツイッターを介して伝わってくるようになった。
大学で実施するビブリオバトルというゲームの魅力は、うーえすべーさんの「おもしろかった!」というコメントからも十分に伝わってきていた。ビブリオバトルを見るとビブリオバトルをやりたくなる。そういう感想が見えてくるようになっていた。
そしてまた、大学教育や司書課程のカリキュラムとビブリオバトルとの相性は、とてもいいようにも感じられるようになった。これもビブリオバトルについてのツイートをいくつか眺めていて気づかされたことである。
そういう考え方に至った理由としては、母校の後輩たちの「ビブリオバトルは楽しい」という言葉から強く影響を受けたことにある。そういう場所(近未来書籍カフェ)をつくっている母校の先生方の力も感じられる。
母校の図書館情報大学(現:筑波大学情報学群知識情報・図書館学類)には、本に関する取り組みを積極的に肯定していくような雰囲気があったと思う。たとえば知識情報・図書館学類では、後に「ビブリオバトル方式の推薦入試」でも話題になったりもしている。
自分は既に2006年の時点で大学院まで修了してしまっていて、その後はつくばからは距離的に離れてしまったけれど、後輩たちが楽しそうに語っている様子はツイッターを見ていれば十分に伝わってくる。ツイッターを眺めているだけでも、ビブリオバトルという新しい取り組みをとても前向きに、みんなで楽しみながら取り入れていることが感じられた。
2010年の秋頃には、「図書館ではもっともっとビブリオバトルを楽しんでいいのだ」「大学でビブリオバトルを楽しもう」というような雰囲気が、私の母校には当たり前のように育っていたように傍目からは見えていたのである。
ツイッター上のやり取りだけからしか見えていなかったけれど、「ビブリオバトルは大学とも図書館とも相性が良い」と私が思うようになったきっかけは、間違いなく自分の母校の先生である宇陀先生と松村先生の「近未来書籍カフェ」や、ビブリオバトルを楽しんでいる後輩たちの存在が大きかったように思う。
自分の母校の関係者がビブリオバトルを積極的に楽しんでいたからこそ、私もビブリオバトルに強く関心を持つようになったと言える。そういう様子が伝わってこなければ、私はここまでビブリオバトルに関心を持てていなかったと思う。
私とビブリオバトルを強く結びつけてくれたきっかけをたどってみれば、2010年における母校の先生方と後輩たちの活動のなかに根づいていたことが大きな理由になっている。そういう影響を受けながら、私自身も「図書館ではビブリオバトルをどんどん取り込んでいったほうがいいのでは?」「大学のなかでももっと広まってもいいのでは?」という思いを抱くようになっていた。
谷口さんに頼まれる形で、私は2015年からビブリオバトル普及委員会の二代目の代表理事の役目を引き受けることになるのだけれど、こういう話へとつながったのは、私自身が図書館情報大学で学んできたという背景があったからだと言える。母校の先生や後輩たちがビブリオバトルを楽しんでいた流れがあったからこそ、その先の場所で私はビブリオバトルの普及活動を引っ張っていく立場に収まることになったと思う。
私が自分一人でビブリオバトルに関わりたいと思うようになったわけではなく、周りの人たちの「楽しい」という言葉が私を変えていったことになる。「楽しい」という言葉は人を動かす力を持っている。
2010年6月に、京都大学「超交流会2010」でビブリオバトルが実施された。その年の10月、筑波大学の宇陀・松村研究室が「近未来書籍カフェ」のなかでビブリオバトルを実施している。2011年3月には、奈良県立図書情報館で公共図書館で初めてのビブリオバトルが実施している。同じ年の11月、図書館総合展のなかの「ランチタイムセッション」でもビブリオバトルが行われている。こういう活動の先にLibrary of the Year 2012の大賞受賞の流れがある。
2012年のLibrary of the Year 2012で私がプレゼンターとして登壇することになった背景には、「ビブリオバトルをやってみたら楽しかった」という声を身近な知り合いから聞いていたり、実践している知り合いがいたことも理由の一つにある。特に宇陀・松村研究室の「近未来書籍カフェ」については、図書館とビブリオバトルとを違和感なく結びつける役割を果たしていたと思う。
「近未来書籍カフェ」でのビブリオバトルから10年が経ち、2020年には『図書館情報学用語辞典』にビブリオバトルという用語が立項されるようにもなった。図書館における児童サービスとして、「読み聞かせ」「ブックトーク」「ストーリーテリング」などが日常的に行われるようになったように、既にビブリオバトルの開催も図書館では当たり前の取り組みになっている。
Library of the Yearの歴史を振り返ってみても、その時点における最先端の事例というものは、良い意味で他者に真似されていき、あっという間に普通のできごとへと変わっていくことになる。図書館情報学という学問は、ビブリオバトルというゲームをその対象として引き込んでいったのである。
そして私もそういう大きな流れに合流することになったのである。
すでに登録済みの方は こちら