ビブリオバトルを語る

ビブリオバトル普及委員会に加入した人は、それぞれの地域でビブリオバトルの普及活動を行っている。2013年に文部科学省「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」のなかでビブリオバトルが取り上げられたことで、学校教育の関係者からのビブリオバトルへの注目度が高まるようになった。ビブリオバトルの魅力を学校教育の関係者に伝えようとする話。
岡野裕行 2021.07.19
誰でも

子どもの読書活動とビブリオバトル

2012年のLibrary of the Year 2012の大賞受賞は、図書館業界にビブリオバトルが広まっていく大きなきっかけになった。その半年後の2013年5月17日に、文部科学省が「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」のなかでビブリオバトルに言及している。このときの反応については、ビブリオバトル普及委員会でも記録に残している。

「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」は5年ごとに見直されており、2018年の「第四次子供の読書活動の推進に関する基本的な計画」でも取り上げられている。

ビブリオバトルに言及するときの文脈は第三次計画と第四次計画では若干異なっているけれども、文部科学省が継続して取り上げられるくらいの注目度の高い取り組みに育っていることがわかる。国が定めたこれらの読書活動の推進計画は、全国の都道府県教育委員会が定める「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」にも影響を及ぼし、さらには各市区町村での計画策定にもつながるようになる。

もともと大学のゼミから小さく始まったビブリオバトルは、2013年以降は子どもの読書活動の推進という文脈でも明確に語られるようになったのである。

文部科学省が計画のなかで言及したことの影響力は大きく、全国各地の都道府県や市区町村が定める「子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」のなかにビブリオバトルという文言が記される事例も徐々に増えていくようになる。こういった計画をもとにした読書推進活動は、特に学校教育のなかにビブリオバトルを導入する形へと発展していくようになる。

ほぼ同じ時期である2013年4月には、ビブリオバトル考案者である谷口さんの新書『ビブリオバトル:本を知り人を知る書評ゲーム』が出版されている。これはビブリオバトルをテーマにした本のもっとも早い事例である。

谷口さんの本ほど注目はされなかったが、さらに2013年6月には『ビブリオバトル入門:本を通して人を知る・人を通して本を知る』という本も出版されていて、こちらには私も大学における普及事例を寄稿している。

ビブリオバトルの情報はそれまではほぼウェブ上でしか得ることができなかったが、本というメディアを通してビブリオバトルの情報が流通し始めるようになったことの影響は大きい。

学校教育/学校図書館でビブリオバトルが積極的に展開されるようになった背景には、新書という読みやすい形式でビブリオバトルが語られるようになったことの影響もあったと思う。たとえば2013年7月に、三重県教育委員会の方が私のところに「三重県高校生ビブリオバトル」の実施の相談に訪れたことがあったのだけれども、その際に三重県教育委員会の方も文部科学省「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」のほかに、発売されたばかりの谷口さんの新書『ビブリオバトル:本を知り人を知る書評ゲーム』を携えていたのである。

そしてこういう流れの先に、2013年以降には「ビブリオバトルの講習会を行ってほしい」という依頼が私のところにも寄せられるようになったのである。

ビブリオバトルの講師を担当する

私個人としてビブリオバトルの講演会を行ったのは、2013年7月30日の「愛知県学校図書館研究会高等学校部会名瀬地区研究会第2回研究会」が最初の機会である。2011年11月にビブリオバトル普及委員会に入会してから、1年8か月後のことである。
その間に「Library of the Year 2012」のプレゼンター役をはじめとして、対外的なビブリオバトル普及活動もいくつか行っていたのだけれど、ビブリオバトルと学校教育/学校図書館とが読書活動推進という明確な目的のもとにつながっていく動向は、私個人が関わった範囲でも2013年5月の「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」の影響力が大きかったように感じている。

このときの依頼メールを確認すると、この講演依頼があったのは2013年5月27日なので、文部科学省「第三次子どもの読書活動の推進に関する基本的な計画」が公表された10日後には、研究会の正式な講師依頼文書が私のところに届いていることになる(正式な依頼文書が届く前に、まずは電話でのやり取りもして内諾をしていたので、実際はもっと早い時点で依頼がなされていたことになる)。
その当時に愛知県学校図書館研究会の名瀬地区の企画を担当されていた校長先生が、ビブリオバトルというゲームを知って興味を抱いたことがきっかけだそうで、すぐにネットで調べてビブリオバトル普及委員会の存在を知り、即断即決で学校図書館の研修会のテーマにすることを決定されたのだと講演会の当日にご本人から伺っている。
5月中旬に文部科学省の計画に掲載されたビブリオバトルが研究会のテーマとしてすみやかに選ばれ、7月下旬には実施に至っているわけなので、講師依頼を受けた側の感想としても、正式な依頼に至るまでのスピード感がほんとうにすごかったと思う。

個人的には初めての講師依頼に応える機会であるので、講演内容にはいろいろと迷いながら悩みながらも、その当時の自分にできる話を十分に練り上げ、会場となった愛知県立旭野高等学校の図書館を訪れた。講演タイトルは「ビブリオバトルの楽しみ方」で、どういう話をすれば研究会の参加者に喜ばれるのか、学校図書館に関わっている人たちの参考になるのかをいろいろと考えて準備をしていたのである。

その後も全国各地からビブリオバトルの講演依頼がされており、そのたびに講演内容を見直して少しずつバージョンアップをするようにしているので、最初期の愛知県学校図書館研究会でのスライドを見返すと、現在私が行っているようなビブリオバトルの講演内容とはだいぶ違うものにはなっている。
最初期のこのときの講演を振り返ってみると、ビブリオバトルのおもしろさや学校教育に対する魅力をうまく言語化できなかった部分もあるし、当時は今ほどビブリオバトルの知名度もなかった状況だったこともあり、「ビブリオバトルって何?」という説明のところに時間を多めにつかってしまったようにも思えてしまって、今となっては反省するところも多いのだけれども、その後のビブリオバトルの講演会の基礎を私のなかに育ててくれた貴重な機会になっている。

これ以降は「ビブリオバトルを楽しむ」という参加者視点ではなく、「ビブリオバトルとは何か」という本質的な問いかけを常に自分のなかに持つようになったとも思う。
ビブリオバトルという文化が世の中に広まっていく様子や、新しいゲーム形式の読書活動が図書館や学校教育へと広まっていく過程を同時代の動きとして見ることができる。同時代の書物文化/読書文化が変化していく現象を追っていくことができる。
せっかくビブリオバトルの普及活動に関わる機会を得たので、「ビブリオバトルとは何か」という問いかけを自分のなかで持ち続けようと思うようになった。そういう視点に改めて気がついたとも言える。

いち早くビブリオバトルの講演依頼をしてくださった校長先生には、とても感謝しています。

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